ヤマケイ文庫 ドキュメント 道迷い遭難 by 小林 泰彦 ダウンロード PDF EPUB F2
内容を一言で説明するなら「道に迷って遭難した人の行動を追ったドキュメンタリー」です。救援隊が発見、もしくは自力下山した生還例ばかりなので、死亡というケースはありません。文章も恐怖を煽るような大げさな表現もなく、遭難状況の推移が淡々と書かれます。しかしそれが逆に恐ろしい。斜面を登るか下るか、分かれ道のどちらをたどるか、体力温存してビバークするか、それとも強引に進むか。生死の境目というのはほんとうに紙一重なのだなあとぞっとしました。迷ったきっかけも、前日から体調が優れなかった、ルートがわかりやすいと思いこみ地図を携帯しなかった、朝起きるのが遅かった、等ごくささいなことから予定が崩れ始め、迷ったと気づいていながら景色の美しさに惑わされたり戻るのが嫌でついついそのまま進んでしまう……迷ってからの幻覚や幻聴の描写も、徐々に精神が追いつめられてゆく状態がありありと感じられ、読んでいて息が詰まるようでした。
「迷ったら沢に降りるな」「迷ったと思ったらすぐ引き返せ」自分のような登山の素人でもなんとなくきいたことのある鉄則ではありますが、焦りやパニックの中ではそれがいかに守りづらいものかと改めて思い知らされました。最後の部分では救助にかかった費用なども紹介されており、たとえ生還してもめでたしめでたしでは終わらない複雑さもうかがえます。ふだんハイキング程度で、本格的に登山をしない人でも読んで損はしない本です。